「もしもし、お巡りさん?お巡りさん、今暇か?・・・へえ、忙しい。そいつは結構なこった。お仕事熱心だね。でもな、昨日出た奴に訊いたら、この 時分はスナックタイムだって言ってたんだけど?まあ、いいさ。・・・・・・おいおい、切らないでくれよ、いたずらじゃねえんだ。切るな!・・・そう、いた ずらじゃねえ。一大事だぜ。あんたが今、仮にでも忙しいんだとしたら気の毒だが、随分とまた忙しくなっちまう。まあ、暇だったとしても同じことだけ ど。・・・なあ、聞きたくないのか?いや・・・・・・切るなよ、これ以上悲惨な目なんざ見たかねえだろ。・・・・・・そう、ついさっき、俺は目が覚めた。 ベッドの上で目が覚めたとき、まあ酷い気分だったんだ。だから知ったんだよ、今日が最悪の一日だ、ってな。・・・・・・ああ?俺もお巡りさん、あんたと同 じ、夜から一日が始まる、太陽が月で月が太陽な人間なんだ。・・・え?・・・名前?俺のか?別に何の役にも立たねえよ、そんなもん。・・・ い や・・・・・・名前?いや、別に隠してるわけじゃない。ただ―・・・・・・ああ、分かった。教えるよ。ジョーンズだ。J、O、N、E、 S、ジョーン ズ。・・・そう、ミスター・ジョーンズ。何の変哲もない名前だ。これで満足だろ?・・・・・・まあ、そう焦りなさんな。多分事件のピークは越えちまった感 じ。多分、これ以上は死なんと思うぜ。・・・そう、そうなんだ。一大事、そうだよ・・・人殺しだ。お巡りさん、殺人だよ、起こったのは。・・・・・・え? 俺のいる所?馬鹿、何で言わなきゃなんねえんだよ。俺は今、公衆電話からかけてんだ。探知してくれよ、それ位。俺は自分の小銭を投げ打って、あんたとお話 してるんだぜ。切れる前にとっとと言っちまわねえとな。・・・・・・いいか、言うぜ。・・・まず・・・まず、殺されたのは、ガキだ。・・・・・・性別?女 の子かな。・・・ああ、でも、多分格好からして男だ。女の子みたいな顔した可愛いガキだっているだろ?そんな感じ。・・・そう、本当にガキだ。学校に言っ てそうな年齢だけどよ。・・・・・・周りの奴ら?誰もいねえよ。・・・・・・ああ。・・・・・・・・・いや、そう、嘘だ。嘘になる。いたけど、馬鹿騒ぎし てて気付きやしなかった。・・・まあ、とっとと核心に入らねえとな。小銭が切れちまう。・・・・・・はっ、他の奴?スラムの人間に、そんな俺みたいに良識 のある奴がどれぐらいいると思ってんだ!・・・まあいい、続けるぜ。・・・・・・そう、そのガキが、ちょうど盗みをやらかして、まんまと逃げ帰る途中だっ たみてえなんだ。そこにだな、黒いスーツの・・・・・・・・・・お巡りさん?・・・・・・お巡りさん?聞いてるか?俺、もう一枚小銭入れたぜ。・・・あ あ、そうだ。黒いスーツのでかい男。髪も真っ黒で・・・ブルーネットとか、そんなのじゃねえんだよ。ぱっと見た感じ・・・ああ、もういいってか?でもな、 アジア人じゃなかったよ。まあ、それじゃあ続きを手っ取り早く言うぜ。・・・そいつが、そう、男だ・・・・・・お巡りさん、俺の言った特徴ちゃんとメモし た?・・・・・・・・・その男がな、いきなり歩いてきて、ガキに向かってな、バン!バン!バン!・・・きっちり三発。それより多くも少なくもなかったね。 多分ガキ即死だったぜ。・・・・・・その男?ああ・・・歩いてったよ。俺の目の前通ってな。そう、追っかけりゃ、まだ間に合ったかも。・・・・・・はっ、 いたずらだってか?・・・・・・じゃあ、初っ端から、信じてなかったんだな?・・・何だ、お巡りさん。あんた自分の言ってることが正しいんなら、忙しくも 何ともなかったってことになるぜ。・・・折角の一大事だってのに、あんた・・・。俺は投げ打った小銭と時間を悔やむね。畜生!・・・・・・・・・・・・ま あ、じゃあ切るぜ。小銭ももうお終いだ。・・・でもな、これだけは言っとく。・・・・・・あんた絶対後悔するぜ」


..2007.01.28. 輝扇碧
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