01. Café Eden
働かずに暮らしていける人生を約束されたエドにとって、楽園の名を冠したこのカフェは、まさに楽園そのものだった。
まず、他人に邪魔をされる心配がない。ここカフェ・エデンは、表通りに面していないせいか、客の出入りが少ない。入ってくる客は皆、エドと同じように、
静かな安息の時間を過ごそうと考えている人間ばかりだ。店内で大きな声が上がることはなく、常に静かな空気で満たされている。
そして、顔見知りがいない。彼がついこの前まで在学していた大学の、口うるさい仲間達には(仲間という程、好感を抱いたことはなかったが)、ここに彼が
いるということすら想像がつかないだろう。
極めつけは、何もせずとも時間が過ぎていくことだった。エドは裏通りを歩く人々を見るのが好きで、何時間見ていても飽きることがなかった。歩いている人
々には、今までに彼が関わってきた人間にはない魅力があった。慌しげで、その日を生き延びるために生活しているようにすら見える人間ほど、彼と縁のないも
のはない。
この日三杯目のカプチーノが運ばれてきた。ウエイターに礼を言うと、エドはスラックスに包まれた足を組み、外に目をやった。彼が腰掛けているのは、外を
他のどの席よりもよく見ることができる、いわば彼にとっての“特等席”だった―初めてここに来たときは、かつての仲間達に出会うのを恐れ、最初は店内の、
一番奥の席に座っていたのだが。
きざな笑みを浮かべた男が、傷んだブロンドの髪をした女に言い寄っている。その後の展開を、エドは何となく予想することが出来た。
こうやって外をを見ていると、彼は自分が楽園の住人で、下界を見下ろしているかのような錯覚に陥ることがある。悪くない気分だった。
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