02. Goddess
「ガッデス、おれの女神。体を売ることなんてない。おれが助けてやるよ」
「あたしが娼婦に見えるのかい?」ガッデスは男の方を向こうともせずに言い放った。「酒代が必要とは言え、そこまで落ちぶれちゃいないよ。このクズ!」
「アンディって呼んでくれ」男、ことアンディはガッデスの言葉を大して気にかけていないようだった。「それと、髪を切ったほうがいいぜ、ハニー。きみの頭
から生えてるそいつは髪に見えない。特に毛先。傷んじゃってさ」
ガッデスは危うくアンディの方を見る所だったが、辛うじて思い留まった。この手の男に心を許してはいけない。ただのストーカーだ。彼女はまだ警官バッジ
を持っていた頃、これと似たようなケースに何度も遭遇したことがあった(尤も、実際に遭遇したのは警察に訴えてきた女達であって、彼女ではなかったのだ
が)。甘さを見せてはいけない。
「どっか行ってよ」彼女は言った。「あたしに近寄るな」
アンディの歩き去る足音がしたが、数歩で止まった。
「こっちを見ようともしないんだな、きみは。何て冷たいおれの女神!」
「さっさと消えて」ガッデスは体にストールを巻きつけた。
しばらくして、ようやくアンディがいなくなった。
ガッデスは地面に座り込んだ。体が震えだした。ハリーが死んでからは時々こうなる。
ハリーは彼女の夫で、兵士だった。そのせいもあってか、ガッデスの母親は、最後まで結婚に反対していた。その度に彼女は母親にこう言ったものだった。
「ママ、彼の身にもなってみてよ。警察官と結婚するんだから」
年上の彼は献身的で、妻に不安を持たせることのない夫だった。結婚生活は十年近く続いたが、彼の戦死によってあっけなく終わった。
ガッデスは地面から腰を上げた。このまま座り込んでいても、他の連中に絡まれるだけだ。髪の毛に指先で触れると、アンディの言ったとおり、ひどく痛んで
いた。脱色と染色を繰り返してブロンドにした髪は、肩の下まで伸びている。ミイラの頭髪も、触ってみれば同じ感触がするだろう。だが、生活保護を受けてい
る身で、それをどうにかするほどの金があるわけでもなかった。ハリーの戦死による慰謝料は全て彼の両親に持っていかれた。彼女もそれに異議を唱えなかっ
た。
生活保護で受け取る金はさほど多くないが、そのほとんどがアルコール代に消えている。
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