40. Eden


 エドは新しい友人達と並んで夜の通りを歩いていた。これから『ラ・エスペランサ』に行くことになっている。
「エド、お前アルコールいけたのか?」友人の一人、アランが言った。「入学パーティーですぐに酔ってたくせに」
「マスターが知り合いなんだ。入学する前からの」エドは静かに笑った。
 しばらくすると、通りを見慣れた顔の男が歩いてきた―ラリーだ。しばらく見ない間に、少し変わった。新しいコートを着て、毛糸の帽子を被っている。エド に気がついたらしく、手を上げて挨拶した。
「ラリー、久しぶりですね。調子は?」
「悪くないさ、エド坊ちゃん。住処があるのにも慣れてきた所だ」
「それは良かった」
 エドの友人達も、口々に挨拶した。ラリーは一人ひとりに礼を言った。みすぼらしさは感じさせなかったが、その姿は以前よりも弱々しくなった印象を受け た。
「礼ならエドに言ってくださいよ。一番寄付をしているのは、こいつの親父だ」
「いちいち言うなよ、アラン」エドは友人を小突いてから、ラリーに手を振った。「それじゃあ・・・また会いましょう、ラリー」

 しばらくしてから『ラ・エスペランサ』に着くと、キットがドアを開けて出迎えてくれた。陽気な表情をしていた。「ようこそ、『ラ・エスペランサ』に」
「待ってたよ、エド!」パコがカウンターから叫んだ。「お友達も!」
 エドは友人達に二人を紹介した。「奥にいるのがマスターのパコ。こちらがキット」
「よろしく、キット。あんた凄くでかいし、クールだな」
「ありがとう」キットが半分目を閉じて微笑んだ。それを見たエドも笑った。
 パコがタバコを挟んだ指を振った。「シャンパンは用意してないよ。パーティーで浴びるほど飲んだって聞いたから。だからまずはビールだな。キット、運ん でくれ」
 キットが大きな手で器用にジョッキを運んできた。
「マスター、エドの奴、変わった知り合いが多いな?身分に不相応というか。さっきはホームレス、その前は警官と会ったんだが、みんな奴の知り合いなんだ」 タバコに火を点けた後、スティーヴが言った。彼はエドよりも一つ年上で、奨学生なのだと言った。「それでも、やっぱりこいつは気楽な奴だよ」
「次はここに入り浸るよ」パコがタバコを吸いながら言った。「法律の難しい話以外なら、大歓迎さ」
 エドはジョッキを持ち上げ、音頭を取った。「それじゃあ・・・“希望”に乾杯」
「乾杯!」空になりかけたジョッキがぶつかり合った。「・・・希望に、そして、喜びに。何だ、エド。もう酔ったか?」
「外の空気を吸ってくる」
「さらわれるなよ!」
 エドは手を上げて応え、立ち上がって外に出た。表通りを見た。人々が忙しなく歩いている。こんな風に他人をゆっくり観察するのは、久しぶりのことに思わ れた。そして、ふと思った―自分もこんな風に、誰かに観察されているのかも知れない。
 後ろでドアが開き、キットが顔をのぞかせた。「少し長すぎないか?皆が呼んでいる。それに、あまり長居すると風邪を引くぞ」
「分かったよ、今行く」エドはキットの後について『ラ・エスペランサ』の中に戻っていった。
 キットがドアを閉めた。

THE END.

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