12. Unexpected meeting


 キットの代わりが必要だ。
 コニーがここ数日、自ら街を歩き回っているのは必要に駆られてのことだった。キットのように見返りを求めない、それでいて献身的な男(彼はその点だけに おいては、彼の息子を評価していた)―もしそうでなくとも、それなりに矯正できる男―を捜していた。
 彼が目をつけたのは『カフェ・エデン』でいつも同じ席に一人で座り、外を眺めている青年だった。一日中そこに座っていられる程の時間を持っているという ことは、自分の世話をしてくれるだけの時間もあるということだ。
 コニーはカフェの入り口付近の歩道に座り込んでいる浮浪者に近寄ると、無造作に数枚の紙幣を押し付けて尋ねた。「あの男について知りたい」
「危ない奴ですぜ、旦那」浮浪者が言った。「元はお坊っちゃんだが、大学中退しちまった上に精神病になって、今は廃人だ」
「その話は本当か」コニーは浮浪者の被っているハンチングを優しく叩いた。「俺は嘘をついた奴には容赦をしなくてな・・・」
「旦那、金をこんなに貰ってるのに嘘はつかないよ」浮浪者は変わらぬ調子の声で言った。
 それから数日が立ったが、コニーは浮浪者の言葉を信じられずにいた元来疑い深い正確なのだ。
 『カフェ・エデン』に入った彼は、何気ない歩調で目的の青年の近くの席に座り、仔細に観察した。
 青年は、どこか虚ろな目で外を眺めていた。赤みを帯びたブロンドの髪は櫛を入れて撫で付けてある。グレーのスラックスに白いシャツと濃紺のベストを合わ せている。小奇麗な身なりだ。あの浮浪者の言ったとおり、家柄は良さそうだった。
「エドワード・・・?」コニーはそっと浮浪者から聞いた名前を呼んだ。
 青年は無反応だったが、しばらくすると、唐突に理解し難い行動を取った。中身の減っていないカップの中身を、テーブルの上に置かれた鉢植えの中に残らず 零したのだ。
「・・・エドワード」コニーはそれでも望みを捨てずに、青年の肩に手を置いた。「なあ、少し話をしようじゃないか・・・」
 青年がカップを受け皿の上にひっくり返して置いたかと思うと、いきなり机の上に突っ伏して震え始めた。
「お客さん、相手にしないほうがいいぜ」少し離れた席に座っている、痩せぎすの男が言った。「ラリってるんだ」
「そうか・・・そうなのか・・・」コニーは誰にともなく呟くと、足早に『カフェ・エデン』を後にした。信じられないことに、あの浮浪者が言っていたのは真 実だった。
 キットの代わりはそう簡単には見つからなさそうだった。コニーはキットが生まれてから初めて、その存在感を知った。
 アンディでどうにかするしかないのか。
 そう思ってから、コニーはその日一日アンディを見ていないことに気付いた。

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