20. A certain feeling


 路地を覗きながら歩いていたフィッツィの目に入ったのはごみ溜めだった。回収された形跡はない―無理もない、こんな入り組んだ路地の奥にあるのだ。誰も 気がつきやしない。
 誰も、気がつきやしない。
 彼の胸を掠めたのはある予感だった。それは、アンディ・ジョーンズが姿を見せなくなってからのこの一週間、決して拭い去ることができなかったものだっ た。
 深呼吸をして、彼はその路地裏に足を踏み入れた。あたりに人の姿はなかったが、ごみには鼠が集っていた。
 フィッツィは彼の体が強張り、鼓動が頭にまで響いてくるのを感じた。彼の理性は肉体を制御することができなかった。
「アンディ・ジョーンズ?」彼は低く呼びかけるように囁いてから、自分の発した言葉の可笑しさに気がつき、慌てて言い直した。「・・・誰か、いますか?」
 返事の代わりに、足元を数匹の鼠が逃げていった。意を決したフィッツィは、ごみ溜めのすぐ傍まで行った。胸に手を当てると、バッジの下の鼓動が分かっ た。
 溢れ出しているごみの山に目を凝らすと、それはすぐに見つかった。見覚えのある高級ブランドのスーツ、そして革靴。
「アンディ・ジョーンズ・・・」フィッツィは呻く様に言った。視線を上げると、だらしなく開いた上着の袖口から垂れた、変色して黒ずんだ死人の手が目に 入った。
 極限にまで達した緊張のせいで、彼の右腕は痙攣し始めた。十年以上も前、高校の卒業式でのスピーチの時に起こったものと同じだった―極度の緊張に体が悲 鳴を上げている。
 トランシーバーで死体発見の旨を告げると、彼は死体から顔を背け、込み上げてくる吐き気に耐えた。皮肉にも、彼の予感は当たっていた。

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