[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
21. A passer「見て。死体袋よ」 パトカーの灯を眺めていたエドは、誰にともなく呟く女の声に振り返った。 「殺されたのね・・・」声の主はエドから一つ離れた席に腰掛け、コーヒーを飲んでいる女だった。 エドは女の横顔を見た。見覚えがあった―確かギャングに追われていたのではなかったか?髪の色こそ変わってはいるが、顔は同じだ。 「あなたは・・・?」彼は尋ねた。「この店で見かけたことがないものですから」 「通りすがりの客よ」女が言った。 エドは再び女の横顔を眺めた。目元や口元に、目を凝らさないと分からないような小皺があった。澄んだ瞳、くっきりと弧を描いている眉。顔全体から意志の 強さが滲んでいる。 「・・・坊やは良い所育ちみたいね」ハンドバッグを探りながら女が言った。「世界が違うわ、あたしとは」 「父がホテルを経営しています」 「やっぱりね」女は外を見続けている。「そう・・・あたしね、もうすぐここを出て行くの」 「どうしてですか?」 「あたしに関わった人間が死んだのよ。それに、以前には・・・夫の死もここで聞いた」 「それをどうして僕に?」 「さあね」女は軽く首を横に振って、立ち上がった。 「さようなら」エドは女に微笑みかけた。「新しい土地でも頑張って下さい」 「ありがと」女が言った。「坊やはずっとここにいるみたいね」 エドは女が足早に、そしてパトカーを避けながら歩き去るのを見ていた。それから、彼女のことをフィッツジェラルド・ロウに言うべきか否か、考えを巡らせ 始めた。 back
top next
|