24. So as to murder you


 キットはアンディの死をパコの口から聞いた。額を撃ち抜かれ、ごみに埋もれ、死後一週間たってからようやく発見されたということも。それで彼はいても 立ってもいられなくなり、『ラ・エスペランサ』を飛び出して来たのだった。当然パコは良い顔をしなかったが、それでもはっきりとは止めず、代わりにこう 言っただけだった。「ギャングを連れてくるなよ」
 途中で家に寄り、スーツに着替えて髪を整髪量を使って後ろに撫で付けた―立ち上げるだけの時間があるとは思えなかった。数日振りに履いた革靴は、少し窮 屈だった。
 通い慣れた建物に入ると、二人の男に銃を突きつけられた。「合言葉は?」
「言ってる暇はない。自分だ」キットは男たちを交互に睨みつけた。「親父を探してる」
「キット!」男の一人―見知った顔だった―が驚いたような声を上げた。「お前、今までどこに・・・ああ、ミスタ・バーグマンは奥に篭ってる」
「どうもありがとう、ヒューイ」
「戻ってきたのか、キット?」
「今は・・・」キットは呟きながら階段を駆け上がった。
 自分はここに戻ってきたのだろうか?また今までの生活に戻るために?
 コニーの部屋の前には、知らない男がいた。「誰も通すなって言われてる」
「じゃあ言いつけを守れ」キットは男の鳩尾を殴り―自分がこんな事をしているとは信じられなかった―床に転がした。
「自分はここに来ました」
 ドアを開けると、コニーは後ろを向いてソファに座っていた。彼はゆっくりと振り向いた。憔悴しきった顔だった。無精髭が伸び、目は血走っている。酒の臭 いがした。
 キットは大きく息を吸った。「・・・ここに来ました」
「そんなにあいつの事が憎かったか!」唐突に立ち上がったコニーが怒鳴った。
「そんな・・・」キットは目を見開いた。「自分は何も」
「あいつの顔を殴っていただろうが!え、違うか?」
「殴ったのは本当です。でも、自分は・・・今は、あなたの事が心配に」
 次の瞬間、コニーの持った灰皿がキットの腹を強く打った。
「分かるか?俺の苦しみが、え?口ではどうこう言ってても、嬉しいんだろうが!お前は!」コニーの声にあったのは憎悪だけだった。「嬉しいか?アンディが 死んだぞ!」
 キットは胴体を次々と襲う衝撃に耐えた。
「何の為にのこのこやって来たんだ、え?このクソッタレ」
「自分は・・・自分は」キットは痛みに息を喘がせた。確かに、自分は一体どうしてここに来たのだろう?
 しばらくの沈黙の後、彼は躊躇いがちに言った。「あなたが、自分の親だから」
「消えろ!俺はお前を息子だと思った事はない!一度もな!」顔を赤くしてコニーが怒鳴り、キットの脇腹を殴った。「殺されたくなかったら消えろ、今すぐ に!俺の前から!」
 吐き気に耐えられずに咳き込むと、キットの口内に血の味が広がった―内蔵を傷めたかもしれない。よろめきながら部屋の外に出ると、大きな音を立ててドア が閉められた。
 建物を出るまでに何度か声をかけられたが、彼は全て無視した。通りを歩いているうちに再び吐き気に襲われ、堪えられなくなって道端で吐くと、胃液で黒ず んだ血が出てきた。
 人が近づいてくる気配がした。「うえっ!お兄さん、大丈夫かよ。・・・ラリーおじさん、こいつ・・・」
「お若いの、お前さんか!」耳元で聞きなれた声がした。ラリーだった。「どうした?」
「腹、を・・・」キットは喘ぎながら言った。「・・・殴られて」
「アレックス、大きい奴らを二人、呼んで来い」ラリーが言うと、一人の気配が消えた。「キット。『ラ・エスペランサ』でいいな?マスターにゃ迷惑かける が」
 薄れ行く意識の中で、キットは辛うじて首を縦に振った。

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