27. A sign of resistance


 彼がうすうす予感していたとは言え、アンディの死はコニーに大きな打撃を与えた。彼は今まで肉親を失ったときには流さなかった涙を流し、酒浸りになっ た。
 彼はアンディの葬式を挙げようとしたが、叶わなかった―警察に遺体を持って行かれてしまった。司法解剖をするというのだ。
「これ以上痛い目にあわせるのか、え?」彼はその旨を告げた警官に掴みかかって怒鳴った。「お前ら警官には、血も涙もないのか!」
「犯人逮捕の為にもご協力願います」コニーより二回りは若そうな警官は、困ったような顔で言った。褐色の肌の中で、白い歯が何かを言おうとするたびに見え 隠れしている。正義感の強そうな顔だった。
「犯人?決まっているだろうが!クリストファー・・・俺の息子がやったに決まってる!」
「まだそうだと決め付けるわけにはいきません」警官が言った。「証言によれば、彼は銃を所持していないんですよ?」
 コニーは怒りに頬を震わせた。物分りの悪い警官だ。
「買ったかもしれないだろうが!どのみち、あのクソッタレは処罰に値する奴だ。とっとと捕まえて、殺すか牢にぶち込むかしてくれ!」
 警官たちが小声で会話している。やがて、先程の黒人の警官が言った。「ミスター・バーグマン。落ち着かれた頃に、また伺います。何かあったらご連絡を。 私―フィッツィジェラルド・ロウの連絡先を渡しておきます」
 彼らが去った後、コニーは手渡されたメモにライターで火を点けた。
 その翌日、酒浸りになったままのコニーの元にやって来たのはキットだった。少しの間見なかっただけで驚くほど印象が変わっていたせいか 、コニーにはア ンディを殺した見知らぬ男にしか見えなかった。
 コニーはキットに殆ど言葉を発する間を与えずに、その胴を灰皿で殴りつけた。酒で白濁した意識の中で、何度も顔を砕いてやろうと試みたはずだったが、灰 皿を持った腕は一フィートも上がらなかった。
 キットが何の抵抗もしなかったので、コニーはそこにようやく自分の息子の姿を見た。そしてその息子は、左右の色が違う瞳で彼の父親を見据え、その場に不 似合いな言葉を発した。「自分とあなたは親子だから」
 コニーは鳥肌の立つような恐怖を覚えた。瞬く間に酔いが吹き飛んだ錯覚すら覚えたほどだった。今までこの男は従順な犬であるはずだった。しかし、彼がそ こに垣間見たのは反抗の芽だった。
 彼は息子を即座に立ち去らせた。反抗の芽を摘むだけの気力は残っていなかった。だが、彼ははっきりと悟った。本気を出せば、あの男は簡単にアンディを素 手で殺せただろう。そして、コニー自身も。
 躾けられていると思って疑わなかった犬は、ただ鎖で繋がれていただけだった。そして今、その鎖はなくなった。
 やがて訪れるかもしれない報復に対する恐怖がコニーを襲った。

 back  top  next