29. A certain doubt


 フィッツィはしばらくぶりに会う友人の顔を眺めた。「やあ。二階に行ってたのか、パコ?」
「まあね。それよりフィッツィ、あんた疲れ果ててるな」
「アンディの件で、色々と動いててな」
「カウンター席が辛くないかい?あっちのソファはどう?」パコがぎょろりと目を動かして、人の座っていないソファを示した。
「そうする。今日はさすがに疲れた」フィッツィはソファに深々と腰を沈めた。周囲を見渡すと、他の客は入り口付近にいる、痩せぎすの男だけだった。
「よう、また会ったな」男が言った。「仕事大変みてえだな。できる事があれば手伝うぜ、兄ちゃん」
「女を捜してる。金髪の・・・いや、ダークヘアーの・・・アンディ・ジョーンズに追われてた女だ」フィッツィはビールジョッキを傾けた。
「殺されちまったんじゃねえのか?ジョーンズの奴に男がしゃっくりの合間に言った。
 パコがタバコを挟んだ指を振りながら言った。「アシーナなら、この前見たきりだ。フィッツィもいただろ?」
「ああ」フィッツィは空になったジョッキを、目の前にあるテーブルに置いた。アシーナ―おそらくエドの言っていた女で間違いない。「それはそうと、パコ」
「ん、何だい」
「ギャングは来てないか?」
「大丈夫だよ」
「分かった」フィッツィはパコの指に残った長い傷跡を見ながら言った。「これからは、少しでも見かけたら教えてくれ」
「ギャングだね」
「いや。女もだ」
「ぼくがあんたに隠し立てするとでも?」笑いながらそう言った後、パコが煙に咽返った。「ちゃんと言うよ」
「パコ、お前を信用している」フィッツイはタバコを取り出して咥えた。パコが火を点けようとしたが、自分で点けた。
「ヒスパニックは嘘吐きだよ」
「偏見だ」フィッツィは笑って煙を吐いた。シャツに落ちた灰を払うとまだ熱く、危うく手を火傷する所だった。「・・・指はまだ痛むか?」
「まあね。見た感じくっついてるけど」
「良くないな」フィッツィは肩を回した。睡魔が襲ってきていた。「パコ、俺はそろそろ帰る。もう眠い」
「駐車場まで送ってくよ」パコが近寄ってきた。
「あの客は?」
「大丈夫さ。いつも明け方までいる」
 車に乗り込む時、フィッツィは何気なく『ラ・エスペランサ』の二階を見上げた。パコの部屋だったはずだが、電気が点いていた。
 察したらしいパコが、肩を竦めて言った。「しまった、消し忘れてた」
 車を運転しながら、フィッツィは頭の中で渦巻く疑念に気付いた。それはパコに対してのものだった。
 疲れ過ぎだ、フィッツィ。彼は自分に言い聞かせた。早く休め。疑心暗鬼に陥っちゃ終わりだ。

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