30. Charged cooperation


 珍しくラリーは満面の笑みを浮かべた。ここ二日程の間、気にかかって仕方がなかった男―キットの姿を見つけたからだ。前に会った時と同じスーツを着てい たが、辛そうな様子ではなかった。
「お若いの、息して歩いてるか」彼はキットに呼びかけた。
 キットは笑って手を振り上げた。「ラリー!自分はもう大丈夫だ。これから家に帰って、着替える」彼は近付いて来ると、ラリーの顔を見て言った。「髭が短 いと、じいさんって感じじゃないな」
「『ラ・エスペランサ』でシャワーを借りてな」
「すっかり若返っちまった」
「キット、これからお前さんはどうするんだ」
 キットが半分目を閉じて言った。「マスターを手伝う」
 マスターを手伝う?ラリーはその答えにいささか面食らった。パコは少なくとも、店の手伝いを必要としているようには見えない。
「あの人は他人の世話しかしない。自分のことそっちのけで」キットがスーツの上着を脱ぎ、丸めて脇に抱えた。
 彼と別れてしばらくすると、今度は少女が見覚えのある警官を連れてやって来た。それを見たラリーはトレンチコートの肩を揺らして笑った―エミリーの奴、 すっかりあのハンサムなお巡りに恋してるらしい。
「ラリーおじさん、ラリーおじさんってば!」少女が警官の手を引っ張りながら叫んだ。「お巡りさんが、ラリーおじさんにお話があるんだって」
「分かった分かった」ラリーは少女の足を軽く叩いた。「じゃあ、お前は終わるまで向こう行ってな。終わったら教えてやるから」
 振り向いて少女を見送った後、再び向き直った警官の顔からは笑みが消えていた。「今回は仕事で来ました。フィッツジェラルド・ロウと申します―仲間内で は、フィッツィと呼ばれています」
「じゃあさっきのスマイルも仕事用か」ラリーは薄笑いを浮かべた。「エミリーの奴も可哀相に。・・・俺はラリー。お前さんがどこのどいつだろうが、金は取 らせてもらうぞ。いいな?生活がかかってるんだ」
「払いますよ・・・勿論、ポケットマネーから」警官―フィッツィが笑って言った。「俺は警官だ。だからラリー、あなたは本当は俺に無償で協力する義務があ る。しかし、そのせいで餓死されては心が痛む」
 ラリーは受け取った紙幣をポケットに入れた。「さて、何が知りたいんだ?」
「女について―アシーナという女です。家にはもういなかった・・・。ダークヘアで、中年の女」
「・・・アンディ・ジョーンズの死体が出てきてからは・・・間違いない、見とらんよ」ラリーは思い出す振りをすることで、罪悪感を巧妙に押し隠した。「俺 が知っとるのは、その女が前は金髪で、ガッデスと呼ばれてることだけさ」
「ガッデス・・・?」警官の表情が僅かに変わった。
「金を返して欲しいか?」
「いいえ、結構。大いに役立ったのでね」
 ラリーはトレンチコートの襟を立て、表情を隠した。「そいつは良かった。知りたいことがあったらまた来てくれ。俺の方でもアンテナを張っておく」
 少女と一緒に歩いていくフィッツィの後姿を見ながら、ラリーは思案していた。自分以外にもガッデスを匿っている人間がいるようだ。まずはそれを確かめな ければならない。
「ジョニー」彼は低い声で呼んだ。「ジョニー、いるか?」
「何だよ、ラリーおじさん」若い浮浪者の小柄な体が路地裏から姿を現した。「手伝いか?」
「『ラ・エスペランサ』のマスターに、まだ女を匿ってるんだろうって言ってくれ」

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