37. Something rises


  エドは『カフェ・エデン』の方から歩いてくる、制服姿のフィッツジェラルド・ロウを見つけて思わず大きな声を出した。「ミスター・ロウ!」
 フィッツィが立ち止まり、辺りを見回した―まだ気付いていないようだ。
「こっちです、ミスター・ロウ!」
「やあ、エド!」ようやく気がついたフィッツィは笑顔で駆け寄ってきた。「俺は運がいいな、ははは・・・。ちょうど君を探していたんだよ」
「僕もです」エドもつられて笑みを浮かべた。「ああ、でもあなたの方からどうぞ」
「ありがとう、エド」警官は白い歯を見せて笑った。「例の女を見かけなかったか?彼女を捜している男と会ったんだが、見失ってしまってね」
「僕もちょうどそれを言おうと思って・・・!ええ、見ました」
「どこで?」
 エドが指差したのはフィッツィの背中の方角だった。「あっちに行くのを」
「神様!あの男を捕まえておけばよかった!」フィッツィが大きな声を出したので、エドは思わず肩を竦ませた。
「エド、役に立ったよ。俺は今から彼女を探しに行く」そう終えるや否や、フィッツィは走り去っていった。
 何かが起きる。エドは直感した。あそこまで切迫した様子のフィッツィを見たことは今までに一度もない。彼の後を追おうとしたが、結局諦めて『カフェ・エ デン』の外の席まで戻った。
 椅子に腰掛けて通りを眺めていると、見覚えのある姿が目に入った。コンラッド・バーグマン―エドはとっさに男に背を向けた。後ろを通り過ぎていく足音が 聞こえた。どうやら気づかれなかったらしい。
「物騒ね。ギャングじゃないの」店内から出てきた顔馴染みのウェイターがエドの方を見て言った。「カプチーノをどうぞ」
「頼んでいませんよ」
「カフェからのサービスよ。もう今月で店仕舞いだから」
 エドはしばし黙り込んでから、ようやくこう言った。「知らなかった・・・。でも、どうして?」
「私はよく知らないの。でも、一つだけ分かってるのは、早く新しい仕事先を見つけなきゃ、って事ね」
「それじゃあ、カフェ通いもそろそろ卒業かな」エドは呟いた。「いい加減親の金で生きているのはいけないと思って」
「そんなの当たり前よ!」ウェイターは声を立てて笑うと店内に戻っていった。
 やはり何かが起きた。キットは椅子に深く腰掛けた。不安のような感触は未だ消えなかった―切迫した様子だった警官、老ギャング・・・。次は何が起きる?

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