04. The informer


「アンディの奴、まだあの女の人を追いかけてるよ」浮浪者の身なりをした少女が、似たような身なりの男に話しかけている。「それからね・・・さっきキット が歩いてたんだけど、また殴られてたよ」
「そうか。他に何か変わったことあったか、エミリー?」
「ううん。それだけ、ラリーおじさん」
「ああ、分かった。エミリー、最近ちゃんと食ってるか?」
「大丈夫、ちゃんと食べてるよ」
「そいつはよかった。行っていいぞ、ご苦労さん」
 ラリーと呼ばれた男は少女を見送った後、地面から立ち上がって伸びをした。いくら行く当てのない身とは言え、こうも座りっぱなしでは否応なくからだが 鈍ってしまうのでよくない。
 アンディ・・・キット・・・。彼は先程の情報を反復し、頭に叩き込んだ。書き留めておくための紙もペンもないし、必要もない。元々物覚えはいいほうで、 こういった情報は忘れた例がない。金になるなら尚更だ。ラリーは数年前からこの町で情報屋を始めた。勤め先を解雇されて路頭に迷い、日々を食い繋ぐために やったことだったが、今ではささやかな収入源になっている。利き腕が不自由で、働くことができないにしては稼いでいる方だ。その稼ぎのほとんどを浮浪者仲 間と分け合っている。代わりに彼らからも情報をもらう。
 道の向こうに、口から血を流した若いギャングの姿が見えた―キットだ。頬を押さえ、痛みに表情を強張らせている。
 ラリーはハンチングを深く被り直し、垢で汚れたトレンチコートの襟を立てた。キットに一声かけてやるつもりだったのだ。
 キットとの距離が数歩まで狭まったとき、彼は言った。「お若いの、息して歩きな」
「痛くてとてもじゃないけど」キットがラリーの方を向いて答えた。「できるもんか」
「腫れてるぞ。さっさと冷さんと」
「分かってるよ、じいさん。どうもありがとう」
 キットと入れ違いにやって来た少年に、ラリーは何やら耳打ちした。
「氷ならそこを曲がってすぐのバーに行きなよ!『ラ・エスペランサ』ってとこ。パコなら慣れっこだからさ!」少年はすぐさまキットの所まで走って行き、ラ リーの言葉を伝えた。
 ラリーは再び地面に腰を下ろした。損をした気にはならなかった。厳密な商売をやっているわけではないので、たまにはこうやって、他人に恵んでやることも ある。

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