El criado y la mujer



X.

 開け放した窓から室内に吹き込む風が、ブ ラインドをかたかた言わせている。風はいつもより強く、時折、ブラインドを強く鳴らし、アルバロを目覚めさせるほどだった。
「うるさい、黙れ」アルバロは呻き、それから、音の主がブラインドだということに気が付いた。
 朝のうちに目が覚めたのは、久し振りのことだった。この時間帯の空気が冷たいということを、アルバロは、しばらくの間、忘れていたらしい。
 アルバロは寝返りを打ち、この涼しさをもたらしているのは、朝のひんやりとした空気だけではない、と気付いた。マヌエラのつけている、清涼感のアルパ フュームの香りが、枕に残っていた。
 顔にかかる髪の毛を払いのけながら、アルバロは首をかしげた。「・・・レーラ?」マヌエラが横で寝ていた気配はない。
 思ったとおり、返事はなかった。それでも、わずかな期待を寄せていた自分に、アルバロは苦笑した。何を期待していたんだ?あのセニョリータは、ただの雇 い主じゃないか。
 マヌエラに、好意を抱いていないわけではなかった。魅力的な輝きを放っていて、何より、品の良さがあった。それこそが、アルバロの憧れていたものだっ た。アルバロは、生まれたときから、裕福ではなかった。家は、貧民地区にあり、ののしり文句と泣き声が子守唄だった。
 ふと、アルバロは、向かいの家に住んでいた、頑固で横暴なサンティアゴと、その哀れな娘のことを思い出した。あのセニョリータは、好きで走っていたわけ ではなかった。その証拠に、戻ってきたときは、決まってアルコールのボトルを抱えていたものだ。
 そんな暮らしの中で、アルバロは、喧嘩することを覚えた。遊びではなかった、生き抜くための戦いだった。
 初めてマヌエラに会ったとき、アルバロは、自分の育ちの悪さを悔やんだ。マヌエラは、洗練された、気品漂う物腰を身につけていた。それゆえに、アルバロ は今でも、マヌエラに対して劣等感を抱き続けていた。
 風が止んできた。アルバロは、ベッドから起き上がり、シャワーを浴びた。体の傷は全て瘡蓋になり、新しい痣もなかったが、体には疲労が残っていた。昨日 の夕方の、警官からの逃亡のせいだ。
 いつものように髪を束ね、バスタオルを腰に巻き、それから、ベッドに戻ろうとしたが、テーブルの上のポットに目が留まったので、テーブルまで行った。
 ポットには、沸かしたコーヒーが入っていた。昨日、マヌエラが、帰る前に沸かしたのだろう。小さな白いカードが添えてあった。カードにはいつもの筆跡で こう書かれていた。
『Por favor guárdeme hoy.(今日は私を守って)』
 アルバロは、小さな溜息を吐いた。ボディーガードに休みはない。